WHSとは全く関係なく、経営学・経済学の観点から…。
談合にもまれた「3.9世代携帯」の行方 という記事を読みました。
自分の関係する業界に関することもあって、あまりの内容の支離滅裂さに
この国の経済学者・エコノミストの質を疑わざるを得ませんでした。
(1) 不可解な1.5GHz帯の周波数割り当て = 談合 への反論
従来の2~3社から最大4社に枠を増やさざるを得なかったのは、
現行の3Gにおいて競争促進・市場活性化を目的に新規参入させた
イーモバイルを落選させるわけにはいかなかったからというのが
実情でしょう。自ら引いた競争促進・市場活性化路線を否定する
ことになりますから。
それをもって 「談合」というのは論理の飛躍としか言いようが
ないでしょう。既存4社が既定路線というのは、先般の新規周波数
割当において選定されておきながら倒産したアイピーモバイルの
事例も鑑みて、さらなる新規事業者として名乗り出てくる企業が
想定・考慮できないという事情からにすぎません。
そもそもドコモはLTEには1社あたり20Mhzを割り当てるのが周波数
利用効率から考えて必要と従来から主張しており、10Mhz幅の割当
に同意して談合するなどとはまず考えられないでしょう。
一番加入者が多いんだから、自分のところだけでも20Mhz幅を
くれとたぶん言うだろう会社ですよ??
(2) 周波数オークションで競争は促進されるか?
これまた欧米のやることは全て美しくみえるという、論理的飛躍の
最たる例ですね。
金銭不要な公募方式で、事業計画の実現可能性などを考慮して選定
されたアイピーモバイルが倒産して期待していた新規事業者2社が1社に
なってしまったのに、どうして周波数オークションになったら競争が
促進されるのでしょうか?
(3) 周波数オークションは通信料金の値上げにはつながらない?
そんなはずありません。ご自身でも「昨年も、米国で700MHz帯の
オークションが実施され、合計約200億ドルで落札された。」と書いて
いらっしゃるように、2兆円以上の金額が投じられるわけです。
そのコストは当然回収せねばならず、サンクコストだから価格には反映
しないは大嘘です。サンクコストだからこそ固定費として反映される
わけです。
土地代も回収できないレストランこそ、つぶれますね…。
これがもし5社~の競争環境を想定しているとするならば、価格競争は
ありうるかもしれませんが、価格への反映がゼロとは言い切れませんし、
そもそも有限の周波数帯域は1社10Mhzどころかそれ以下の帯域しか
割り当てられず、氏の言葉を借りるなら「効率の悪いインフラに重複
して設備投資がなされ、ユーザーは高くて遅いサービスを使わされる
ことになるだろう」「損をするのは消費者である」
「旧電話会社と関係のない独立系のベンチャーがオークションで落札し、
新しいサービスや低料金を打ち出して競争を促進した」とありますが、
果たしてその企業は継続していけるのでしょうか?
途中で倒産したり、アイピーモバイルのように事業開始前に倒産して
貴重な周波数資源を無駄に遊ばせる結果になりませんか?????
「問題は、むしろ通信料金に転嫁できないために携帯業者の経営が
破綻することなのだ。しかしこれは業者の自己責任だ。」とありますが、
業者の自己責任にしては、周波数が無駄に遊び、消費者が負の社会的
余剰を被ることになりますが。
競争原理を信奉されるのは結構ですが、周波数リソースという所与の
条件を踏まえた上でもう少し大きく深く産業組織論を論じて頂かないと、
この国の経済はますます疲弊していくばかりです。
経済学者 中谷巌が 変節して過去を謝罪されましたが、あれは潔いと
思います。どうか、中谷先生の懺悔の声に耳を傾けて、大きく深く
論理を組み立てて主張いただきたいものです。
追記:
事業者に義務づけられたユニバーサルサービス料金は結局
消費者に転嫁されています。ソフトバンクまで一緒に横並びで
転嫁していますから、電波オークションの落札料金が価格転嫁
されないは論理としておかしく、都合のよい想像といってよいでしょう。
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